認知症になった母が入れる施設を探していました。
でも、最初は、本当にそれでいいのか、と迷っていました。
母を引き取る?引き止めた言葉
私が母を引き取る、という方法もありかと思っていたのです。
でも、母の妹である叔母に言われて思いとどまりました。
「今は世話ができるかもしれないけど、
それがいつまでもできるわけじゃないのよ。
あなたも病気を持っているんだし、
(夫)さんも寝たり起きたりの状態なんだから、ムリよ。
施設は良くしてくれるらしいから、
お母さんのことは任せて、自分のことを考えて。」
母の身内からの言葉は、
私の感じていた後ろめたさを払拭してくれました。
確かに、叔母の言う通りです。
自分が衰えていくことを忘れて、私がやらなければ!と思い込んでいました。
施設の条件
施設探しの条件を次のように考えました。
- 認知症を受け入れている
- 介護度が重くなっても利用が続けられる
- 看取り介護をしている
- 費用が予算内であること
- 清潔で明るい施設
悲しいことですが、悪くはなっても良くはならないのが現状です。
今後、介護度が重くなったときに、
他を探す必要がないようにと考えました。
母の新居となったのは
数ヶ月かかって、弟が探してきたのは、有料老人ホームでした。
ほぼ、思っていた条件に当てはまっていて、
新規オープンする新築の施設でした。
設備はすべてが新品ですから、とても気持ちがよく、
スタッフさんの優しい笑顔を見て、さらに安心することができました。
日中は、デイサービスを受けられるので、
今まで、デイを楽しみにしていた母が飽きずに過ごせそうですし、
厨房で作りたてのご飯が提供されるのも魅力的でした。
入所の日
その日、母は久しぶりのドライブで、ニコニコしていました。
車中、こんな会話がありました。
「私みたいな年寄りばかり集めて、面倒を見てくれるところはないのかね。」
「そういうところを見つけたから、これから行くんだよ。」
「へー、あるの。いいねぇ。」
以前からそんなことを母は言っていたので、
この日もその言葉を聞いてちょっとホッとしていました。
施設に到着して中をぐるっと見ている間、
「きれいだねぇ。」
「いいねぇ。」
と言う母の姿に安心していたら、
ひとつの個室に入った途端、
「これ、私の布団。私の洋服。なんで、ここにあるの?」と。
「お母さんがいつも話していた、安心して暮らせるところが見つかったんだよ。
ここがお母さんの部屋だよ。」
それからは、母はすぐに帰りたい素振りを見せて、
最後には、
「今までたくさん働いてきたのに、
なんでこんなところに置いていくの。
私はもう働きたくない。」と怒ってしまいました。
「仕事はしなくていいのよ。
ご飯も作ってくれるし、掃除も洗濯もしてくれる。
毎日、デイサービスもあるんだよ。」
もはや、何を言っても、「帰る」の一点張り。
困っていると、スタッフさんが、
「ちょっと息子さんたちには、足りないものを買ってきてもらいましょう。」
そう言って、私たちに目配せをしました。
そして、お茶を入れてもらっている母を残して、その場を去りました。
なんとも、切ない別れでした。
その後の母の様子は
入所して2週間後、様子を見に訪ねると、
「あらぁ、珍しい人が来たねぇ。」
と、にこにこ顔で母が迎えてくれました。
もう、すっかりそこの住人の顔になっていました。
その後、弟が訪ねたときも同じだったようで、
でも、前回、私が行ったことはすっかり忘れられていたようです。
ある日、施設を紹介するサイトを覗いたら、写真が数枚あり、
みんなで七夕まつりをしている様子が写っていました。
そして、七夕飾りの短冊に書かれた母の言葉を見つけて、泣きそうになりました。
「元気に長生きしたい」
入所前には、
「早く死にたいよ。もう、やることもないし。」
と口癖のように言っていて、私は悲しい思いでなだめていたのです。
昨日も、母に会いに行きました。
台風19号の影響で、いまだ不通になっている路線を迂回して。
強い風が吹く中を帰る私に、
「寒いよ。大丈夫?」「大丈夫?」
と気遣ってくれました。
「認知症が進んでいるようです。」
と言うスタッフさんの言葉が信じられない母の姿でした。